DEX(分散取引所)で2つの仮想通貨を1組にして預けると、報酬として仮想通貨をもらえます。
これはファーミング(farming)と呼ばれ、利率がとても高いので人気を呼んでいますが、その仕組みとリスクを確認します。
なお、DeFiのステーキングで稼ぐ仕組みについては、下のリンク先記事で確認できます。
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DEXとファーミング
ファーミングを知るにはDEXの理解が必要ですので、先にそちらを確認します。
DEXとは、ブロックチェーン上で実行される仮想通貨売買であり、主に2つの方式があります。1つは、売買価格と数量を取引する人同士で決めてもらう方式(板方式)。これは株式市場と同じです。
この方式は、取引参加者がとても多い時に有効ですが、参加者が少ないとなかなか売買が成立しないというデメリットがあります。すなわち、買いたくても買えない、売りたくても売れない場面が生じやすいということです。
そこで、DEXではもう一つの方法が多く採用されています。すなわち、販売所方式(Swap)です。下はGMOコイン(販売所)の取引画面で、ビットコインの売却価格と購入価格が示されています。
顧客がこの価格で売買注文を出すと、GMOコインがそれに応じて買ったり売ったりしてくれます。この方式なら、いつでも売買できるので安心です。
この方法が、DEXで採用されています。では、顧客が売買注文を出した時に、誰がその注文に応じるのか?という問題が起きますが、これをファーミングで解決しています。
ファーミングとは
ファーミングについて、文章と解説図で確認します。
ファーミング
ファーミングとは、あらかじめ2つの仮想通貨をDEXに預けてもらい、その2つの仮想通貨でトレードしたい顧客が現れたら、預けられた仮想通貨を使って時価で交換します。そして、トレードした人から売買手数料をもらい、その手数料をDEXに預けた人に報酬として分配します。
下の絵の右上に描いてあるDEXは、右下の投資家からBNBとCAKEを借ります。そして、このBNBとCAKEで取引したいという顧客(左側)が現れたら、時価で交換に応じます。
この取引は、BNBを売ってCAKEを買うという内容かもしれませんし、その反対で、CAKEを売ってBNBを買うという内容かもしれません。いずれにも対応できるよう、投資家から2つの仮想通貨をペアで借ります。
そして、DEXはトレードをした顧客から手数料を受け取ります。その手数料を原資として、貸してくれた報酬として投資家に分配します。
なお、2種類の通貨を貸した投資家は、希望次第でずっと貸し続けることができますし、もうやめたいと思えば、いつでもやめて仮想通貨を返してもらうことができます。
報酬の大きさ
では、このファーミングの報酬は、どれくらいの大きさでしょうか。パンケーキスワップ(PancakeSwap)を例にして確認します。
下の画像を見ますと、「APR」と書いてある欄に57.87%とあります。すなわち、貸し出した価値に対して年率57.87%の割合で報酬を随時もらえます。この報酬は、CAKEトークンで支払われます。
年率57.87%というのはとても大きな数字ですが、DEXの世界ではもっと大きな数字もあります。この記事を書いている時点では、下の画像のように年率395.97%というものもありました。
すなわち、預けているだけで年率400%近い報酬をもらえるので、利率や仮想通貨の価格が変化しなければ、資産は1年で5倍に増えるという計算になります。
報酬一覧
では、もう少し多くの通貨について報酬の大きさを見ていきましょう。下は、年率が大きい順に上から5種類です。
表に書き出しますと、下の通りです。
表見出しの流動性(ドル)とは、この通貨ペア(仮想通貨2つの組み合わせ)に貸し出されている合計金額であり、倍率は、後ほど解説します。
通貨ペア | 利率 | 流動性(ドル) | 倍率 |
ATA-BNB | 397.01% | 5,071,923 | 2X |
SWG-BNB | 282.15% | 356,827 | 0.1X |
MTRG-BUSD | 273.06% | 1,843,526 | 0.5X |
KTN-BNB | 271.31% | 1,855,401 | 0.5X |
KUN-QSD | 269.31% | 1,869,227 | 0.5X |
下の画像は、流動性が大きい順に5つ抜き出したものです。
こちらも、表に書き出します。
最も貸出し(流動性)が多い通貨ペアはCAKEとBNBの組み合わせで、その金額は694,123,003ドル、すなわち7億ドル(700億円)くらいということですから、大変な金額です。
通貨ペア | 利率 | 流動性(ドル) | 倍率 |
CAKE-BNB | 57.81% | 694,123,003 | 40X |
BUSD-BNB | 26.49% | 302,964,084 | 8X |
USDT-BUSD | 7% | 286,492,394 | 2X |
ETH-BNB | 11.54% | 173,860,585 | 2X |
USDT-BNB | 15.68% | 127,959,837 | 2X |
Multiplier(倍率)
なお、上の表の右端に「倍率」があります。これは、報酬原資を基準値の何倍にするか?という数字です。
仮に、全ての通貨ペアで報酬原資を同額にすると、流動性が小さい通貨ペアは単位当たりの報酬が巨額になり、逆に、CAKEとBNBの組み合わせのような大人気の通貨ペアについては、報酬が小さくなりすぎてしまいます。
例
通貨ペアごとの報酬原資が100万円で、ある通貨ペアは1人だけが貸し出していたら、その人の報酬は100万円で高額となる。その一方、貸し出している人数が100人だったら、一人当たりの報酬は1万円となってしまう。
貸し出す人数や金額が大きいということは、それだけ人気があるということなので、その人気に応える報酬が必要です。でないと、貸し出してくれる人がいなくなってしまうかもしれません。
そこで、multiplier(倍率)の登場です。この数字を調整することによって、報酬原資を調整します。
改めて上の表を見ますと、CAKEとBNBのペアの倍率は40倍となっています。すなわち、報酬は基準額の40倍もあるということです。ただし、供給された流動性(ドル)も圧倒的に大きいので、年率は57%にとどまっています(57%でも大きな数字ではあります)。
そして、報酬を40倍も上げたということは、別の通貨ペアから報酬を持ってきたということであり、その分だけ他の通貨ペアは報酬額を減らされてしまいます。
multiplierの数字が0.1だったり0.5だったりするのは、配当原資が0.1倍や0.5倍になったことを意味しています。
ファーミングのリスク
ファーミングは日常生活で見聞きする利率とは桁違いに大きいので、是非ともやってみたいという気持ちになるかもしれませんが、主なリスクを2つ確認しておきたいです。
インパーマネントロス
インパーマネントロス(変動損失)とは、通貨ペアのうちの一方の価格が急落(または暴騰)することで生じるリスクです。ファーミングの解説図を再度使って、確認します。
BNBもCAKEも大人気ですが、仮にCAKEの人気が急落してしまい、保有希望者がほとんどいない状態になってしまったとします。このような不人気なCAKEの価格は暴落しますから、CAKEを持っている人は、すぐにでも安全な他の仮想通貨と交換したいと考えます。
すると、CAKEを売ってBNBを買うという注文が殺到します。この流れがあまりに大きいと、DEXの在庫が偏ってしまいます。
- BNB:在庫がほぼ尽きる
- CAKE:あふれんばかりに蓄積
この状態になってからファーミングを止めると、どうなるでしょうか。BNBの在庫がなくてCAKEばかりになるのですから、手元に戻ってくるのはCAKEばかりになってしまいます。
この時点でCAKEは不人気で価格が暴落しているのですから、CAKEは欲しくありませんしBNBが欲しいのですが、結果は逆になってしまいます。こうして損してしまうのが、インパーマネントロスです。
回避方法
この回避方法は、比較的容易です。
片方の仮想通貨価格が暴落してしまう(または、暴騰してしまう)ことによって2つの仮想通貨の価格バランスが崩れてしまうことが原因ですから、価格が変化しない仮想通貨のペアでファーミングすれば良いです。
例えば、USDTとBUSDの組み合わせです。
この2つはいずれも米ドルに価値が連動するステーブルコインですから、インパーマネントロスが発生しづらいと考えられます。ただし、この記事の上にある表を見ますと、USDTとBUSDの組み合わせの利率は7%しかありません。
これは、安全度が高くて投資家の人気を集めた結果でしょう。
高リスクになればなるほど利率は高く、逆に低リスクになればなるほど利率は低くなるというのは、DEXの世界でも同じだということです。
上場廃止
もう一つのリスクは、上場廃止です。
ある仮想通貨の取引がほとんどない場合、DEXの開発者としてはコストがかかるばかりでメリットが小さいです。そういう仮想通貨は取引できないようにします。
すなわち、上場廃止です。
パンケーキスワップでいえば、multiplierの数字が「x0.0」になる状態です。これは配当原資がゼロ倍で0円という意味になりますから、どれだけファーミングしても報酬はありません。
回避方法
この事態の回避方法は、以下の通りです。
- 貸出しを止める
- 不人気の仮想通貨を売却する
まず、収入にならないのですから、貸出しを止めます。
そして、不人気な仮想通貨をいつまでも持っていても、売却さえできなくなって電子ゴミと同様になるかもしれませんから、売却できるうちに売却します。
そして、一定の人気を誇る仮想通貨で再挑戦です。
また、このような事態に陥ってしまいそうな通貨ペアは、予見できます。それは、multiplierの数字が小さくなっているものです。
基準値はx1ですから、それよりも小さければ注意です。x0.1になっていたら、それはいつゼロになってもおかしくない状態と言えるでしょう。
リスクと報酬のバランスを考えて挑戦
最後に、まとめです。
ファーミングで安全度を重視すると、仮想通貨としては面白くない利率になります。その一方で、利率重視で考えると、安全度が劣ってしまいます。
両極端な通貨ペアでファーミングするのも醍醐味の一つですが、バランスを考えて投資するのも、楽しみの一つと言えるでしょう。